盲導犬ユーザー大久保さんと盲導犬インディ(オス・3歳)
突然襲った障害
大久保さんは50歳始めの夏、引越しを手伝うため車を飛ばして息子さんのアパートへ向かいました。その日はなんだか身体が重たく、なんか変だと思いましたがただの夏バテだろうと、それ以上深く考えていませんでした。引越しが一段落しご主人の待つ我家へ戻ろうとした時、突然片目が闇に襲われました。いったい身体の中で何が起きたのか理解する間もなく、反対の目も同じ状態に。息子さんは慌てて大久保さんが運転してきた車の運転席に乗りこみ、その横でとてつもない不安にかられながら小さく身体をうずめる大久保さんを乗せた車は、ただひたすら病院を目指しました。
たくさんの検査の結果、大久保さんの病気は、突発的に視神経へ障害をもたらす非常に難しい病気と診断されました。
どうせ同じ時間が流れるなら
それから約半年間の入院生活。その頃を振り返ると壮絶な日々だったと大久保さんは話します。「なんで私が?」と思いながらも、家族に気づかれないようベッドの中で声を殺してむせび泣いた夜が何ヶ月も続きました。そしてある日、ふと顔をあげて自分自身に向かって、語りかけました。
「どうせ同じ時間が流れるなら、明るく楽しく生きたい」
元来、行動派で好奇心旺盛の大久保さんは、退院後リハビリテーション専門機関で点字や音声パソコンの操作、包丁の持ち方などを習う生活訓練、そして白杖(はくじょう=白い杖)歩行訓練を受けました。自宅に戻ってからも、ご主人と一緒に白杖で公園を散歩したり、インターネットで視覚障害に関する情報を集めたり。そしてその時ふと心に引っかかったのが、「盲導犬」というキーワード。病気が発覚してから、すでに約4年が経っていました。
インディとの運命の出会い
ある日、「前から行ってみたいところがあるけど、つきあってもらえる?」と何気なく息子さんに電話しました。デコボコ道を走りながら大久保さんを乗せた車が停まったところは、東日本盲導犬協会の玄関前。すると「こんにちは!」と肩越しに明るいスタッフの第一声。それも1回だけでなく、誰かスタッフが通るたびに明るく挨拶してくれる協会。
その時直感的に大久保さんは思いました。「私、ここが好きだわ!」
そして盲導犬について説明を一通り聞いた後、「私、盲導犬を申し込みます!」とその場で即決した行動力に、一番驚いたのが隣にいた息子さんだったそうです。
その後盲導犬訓練士が何度か大久保さんの自宅へ訪問し、面接をかねながら訓練犬の何頭かと一緒に軽く体験歩行をしました。
そして盲導犬を申請してから約半年後、「大久保さんのパートナーが決まりました」と盲導犬協会から連絡がありました。
大久保さんのパートナーは、以前体験歩行したインディでした。実はずっと心の中でインディのことが気になっていた大久保さんは、パートナーの名前を聞いたときに目に見えない大きな運命を感じたそうです。というのも、インディは3歳という盲導犬としてデビューするのには遅咲きの年齢。理由は盲導犬としての資質はいいけど、インディと相性(マッチング)が合う盲導犬ユーザーがなかなか見つからなかったから。
「きっとインディは私を待っていたんだ」
運のいい人生に感謝
2008年5月、約4週間の共同訓練を経て、いよいよインディとの新生活がスタートしました。「インディが来てから、目が見えていた頃と同じように笑うようになったね」と言われるほど、家族みんなもインディが大久保家に来た事を喜びました。大好きなコンサートにもすでにインディと一緒に出かけました。今では、大久保さん家族の中心にいつもインディがいます。
インディと一緒なら見えていた頃と同じスピードで歩けます
これからも温泉や海外旅行などインディと行きたい場所はたくさんあると語っていた大久保さん。でもそれ以上に大きな夢は、インディとあうんの呼吸でお互いがわかりあえるような関係になること。そしてインディと一緒に人生を楽しませてもらいたい。
最後に大久保さんがこう言いました。
「私は本当にたくさんのステキな出会いに恵まれて、なんて運のいい人生だろう!支えてくれる家族をはじめ、たくさんの人に感謝しています」。
大久保さんとインディの人生はまだ始まったばかりです。